アルバイトのワンオペは地獄？飲食店などで無理に働かせていない？

ワンオペとは？現場の実態を徹底解説

「ワンオペ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。正式には「ワンオペレーション」と呼ばれ、本来複数人で回すべき業務を1人だけで担当する状況のことです。特に飲食店やコンビニなどのサービス業で頻繁に発生し、近年大きな社会問題となっています。

私が大学生だった頃、ファストフード店でアルバイトをしていました。平日の昼間、突然同僚が体調不良で帰宅することになり、ランチピーク時に私一人だけが残されたのです。注文を取り、調理し、レジを打ち、清掃までこなす必要がありました。あの時の焦りと疲労感は今でも鮮明に覚えています。

ワンオペが発生する背景には、人手不足、人件費削減、シフト調整ミスなど様々な要因があります。コロナ禍以降、多くの飲食店では客足が戻りつつある一方で、人材確保が追いついていないという現実があります。

飲食店のワンオペ実態調査｜現場からの声

飲食店のアルバイトスタッフに話を聞くと、ワンオペの実態が浮き彫りになります。あるファミレスでバイトをしている大学生のAさん（22歳）は次のように語ります。

「深夜帯は基本的にワンオペです。キッチンからホール、レジまで全て一人でこなします。忙しい時は走り回るしかなく、トイレに行く暇もありません。クレームを受けることも多く、精神的にも追い詰められます。」

居酒屋でアルバイトをしているBさん（20歳）の体験はさらに過酷です。

「金曜の夜、予約が10組以上入っていたのに私一人だけでした。調理場のシェフは居ましたが、接客、配膳、会計、片付けを全て一人でこなすのは不可能。お客さんを待たせてしまい、怒られました。その日の終わりには足がパンパンに腫れて、家に帰って泣きました。」

こうした状況は特別なケースではなく、多くの飲食店で日常的に起きています。アルバイト情報サイトの調査によると、飲食店アルバイトの約65%が「ワンオペを経験したことがある」と回答しています。また、その約80%が「身体的・精神的に負担を感じた」としています。

深夜帯・早朝のワンオペ実態

特に深夜帯や早朝のシフトでは、ワンオペが常態化しています。人件費削減のために最小限の人員配置となるためです。24時間営業のファストフード店やファミレスでは、深夜の時間帯に一人だけで店舗全体を管理するケースが多く見られます。

このような状況下では、急な客の集中や店舗トラブル（機器の故障など）が発生した際に対応が追いつかず、結果的にサービス品質の低下や従業員の過剰なストレスにつながっています。

ワンオペは違法？労働基準法から見た問題点

ワンオペ自体は法律で明確に禁止されているわけではありませんが、その結果として労働基準法に違反する状況が生まれることが問題です。特に以下の点で法的な問題が発生しやすくなります：

法的問題点	関連する法律	ワンオペでの具体例
休憩時間が取れない	労働基準法第34条	6時間以上の勤務で休憩なし
過重労働・長時間労働	労働基準法第32条	シフト交代ができずに残業
安全配慮義務違反	労働契約法第5条	過度な負担による健康被害
サービス残業	労働基準法第37条	閉店作業の時間外労働

特に休憩時間の確保は重要な問題です。労働基準法では、6時間を超える勤務に対して少なくとも45分、8時間を超える勤務には60分以上の休憩を与えることが義務付けられています。しかし、ワンオペ状態では店舗に自分一人しかいないため、実質的に休憩を取ることが不可能になります。

ワンオペがバイトの心身に与える深刻な影響

ワンオペの最大の問題は、アルバイト従業員の心身に与える影響です。多くのバイト経験者が、次のような症状を報告しています：

身体的影響

過剰な労働による身体への負担は計り知れません。特に立ち仕事が多い飲食店では、長時間の立ち仕事による足や腰への負担が大きな問題です。筋肉痛や関節痛はもちろん、ひどい場合は腰痛や静脈瘤などの慢性的な健康問題につながることもあります。

また、休憩が取れないことで水分補給や食事が十分にできず、脱水症状や低血糖などの急性症状を引き起こすリスクも高まります。特に夏場の冷房が効きにくいキッチンでは、熱中症のリスクも無視できません。

精神的影響

身体的な影響以上に深刻なのが精神面への影響です。複数の業務を同時にこなさなければならないプレッシャーは強烈なストレス要因となります。「注文を忘れた」「料理が遅れた」などのミスが発生すると、客からのクレームに一人で対応しなければならず、精神的に追い詰められることも少なくありません。

某カフェでアルバイトをしていたCさん（19歳）は次のように語ります：

「ワンオペの日は毎回不安で眠れませんでした。何かあったらどうしよう、ミスしたらどうしようと考えると胃が痛くなります。実際にワンオペ中にパニック発作を起こして倒れてしまったこともあります。」

このような精神的ストレスが続くと、不安障害やうつ症状、さらにはバーンアウト（燃え尽き症候群）につながるケースも報告されています。学業との両立を図る学生アルバイトにとって、このような心身の負担は学業成績にも悪影響を及ぼしかねません。

経営者側の本音｜人手不足とコスト削減の板挟み

ワンオペ問題を理解するためには、経営者側の視点も理解する必要があります。飲食店を経営するDさんは次のように語ります：

「本音を言えば、ワンオペをさせたくて行っているわけではありません。人を雇いたくても応募がない、すぐに辞めてしまうという現実があります。最低賃金の上昇や原材料費の高騰で利益率は下がる一方で、人件費を確保するのが難しくなっています。」

2023年以降の物価高騰と最低賃金の引き上げにより、多くの飲食店は経営の厳しさに直面しています。特に個人経営の小規模店舗では、人件費は最大の支出項目であり、これを抑制するためにワンオペが常態化しているケースもあります。

しかし、短期的なコスト削減が長期的には逆効果になることも多いです。ワンオペによる従業員の離職率上昇は、採用・教育コストの増加につながり、結果的に経営を圧迫します。また、サービス品質の低下は顧客満足度を下げ、売上減少の原因にもなりかねません。

ワンオペを乗り切る5つの対処法とメンタルケア

現実として、アルバイト先でワンオペを避けられない状況もあるでしょう。そんな時に役立つ対処法とメンタルケアについて紹介します。

1. 優先順位を明確にする

全てを完璧にこなそうとしないことが重要です。ピーク時には特に、「今このタイミングで最も重要なこと」を見極め、優先順位をつけましょう。例えば、新しい注文よりも調理中の料理を先に完成させる、といった判断が必要です。

2. 店長や上司に相談する

無理な状況であれば、遠慮なく店長や上司に相談しましょう。「このシフトは一人では対応できません」と具体的に説明することが大切です。多くの場合、現場の声があがらないと問題が認識されないことがあります。

3. 事前準備を徹底する

ワンオペが予想される日は、事前に準備できることを済ませておきましょう。材料の仕込みや清掃など、先にできる作業を終わらせておくことで、ピーク時の負担を減らせます。

4. 臨機応変な対応を心がける

状況に応じて柔軟に対応することも重要です。例えば、非常に混雑している場合は、「少々お時間をいただきます」と丁寧に説明し、お客様の理解を得ることも一つの方法です。

5. 自己ケアを怠らない

自分の心身を守ることを最優先にしましょう。無理をして体調を崩してしまっては元も子もありません。シフト後はしっかり休息をとり、ストレス発散方法（趣味や運動など）を持つことも大切です。

ワンオペ問題の未来｜新しい働き方と改善策

ワンオペ問題の解決に向けて、業界全体でさまざまな取り組みが始まっています。

テクノロジーの活用

タブレット端末でのセルフオーダーシステムやキャッシュレス決済の導入により、レジ業務の負担を軽減する店舗が増えています。また、調理ロボットの導入や簡易化されたメニュー構成など、一人でも対応しやすい店舗運営を目指す動きも見られます。

時短営業・営業時間の見直し

人手不足に対応するため、24時間営業をやめる飲食チェーンも増加しています。特に深夜帯の売上と人件費のバランスを見直し、効率的な営業時間設定に切り替える動きが広がっています。

働き方改革の浸透

大手チェーンを中心に、アルバイトスタッフの健康管理や労働環境改善に力を入れる企業も増えています。シフト管理アプリの導入や、最低人員基準の設定など、ワンオペを防ぐ仕組み作りが進んでいます。

また、「ブラックバイト」という言葉が広く認知されるようになり、求職者の意識も変化しています。労働条件の良いアルバイト先を選ぶ傾向が強まり、企業側も採用競争力を高めるために労働環境の改善に取り組まざるを得なくなっています。

まとめ：ワンオペの現実と向き合うために

アルバイトのワンオペは、確かに「地獄」と表現されるほどの過酷な労働環境を生み出すことがあります。特に飲食店では、人手不足や経営効率化の名目で、本来複数人で担当すべき業務を一人に押し付けるケースが少なくありません。

しかし、このような状況は決して「仕方ない」で済ませるべきではありません。労働者には適切な労働環境で働く権利があり、使用者には労働者の安全と健康を守る義務があります。

アルバイトであっても、自分の権利を理解し、適切に主張することが大切です。無理なシフトや違法な労働条件を強いられた場合は、勇気を出して声を上げましょう。同時に、経営側も短期的なコスト削減よりも、持続可能な店舗運営を目指すべきです。

ワンオペ問題は、個人の努力だけでは解決できない社会的な課題です。消費者としても、サービスの「速さ」や「安さ」だけを求めるのではなく、その裏側にある労働環境にも目を向ける姿勢が求められています。

働きやすい環境づくりは、従業員だけでなく、経営者、そして消費者を含めた社会全体で取り組むべき課題なのです。一人ひとりが働くことの意味と価値を見つめ直すことから、変化は始まるのではないでしょうか。